第48話    「庄内オキアミ考 U」   平成17年03月06日  

安価なオキアミに依存するようになると同時に以前から使っていた、エビやマエなどの活き餌が少なくなって来ていた事もあってその価格は次第に高価となり使う人が格段に少なくなくなった。しかし、釣の現場では柔らかいオキアミを使うと以前のように思い切り竿を振り込むことが出来ないと云う事態が起きていた。その事態をカバーする為に以前より一ヒロから一ヒロ半以上バカが短くなり、その分竿の長さで調節すると云う現象が起きて来た。時を同じくしてカーボン竿の普及品の出現は、その画期的な軽さにより重い庄内竿から移行する者が劇的に増えている。また元々カーボン竿は中空であったから、中通し竿に改造し安く、それが普及するに及び以前にも増して従来伝統釣法である延竿スタイルの釣は見受ける事が少なくなってしまった。

これは安価なオキアミを餌と撒き餌に使うと云う、釣のひとつの革新が普及したところにカーボン竿が普及した事によって、それまでの伝統の釣り方や道具、仕掛けまでも変えてしまうと云う良い例である。以前の釣り方から、釣り易い方法に発展したのか、後退したのかは別にして多くの釣り人に支持された事は間違いのないことであった。その為に庄内の釣り人の中には中通し釣法が、伝統の釣り方と勘違いしている人が多い。ましてや県外の釣り人もそのように思っていると思う。

伝統の庄内釣法とは延べ竿を使ってバカを二ヒロ半から三ヒロ以上取り、錘無しの完全フカセ釣法を使い磯の払い出しを利用して、秋から初冬にかけて荒れた日は元より波の静かな日中にでも僅かなハキを見つけて大型の黒鯛を釣るのが元来の釣り方なのである。その術に長けた者は風のある日でも、正確にポイントに餌を落とす事も可能であり、正に神業に近い職人でもある。三間半から四間の延べ竿を使い大型の黒鯛を釣り上げる技術は、長年の熟練を要する。其処へ行くと中通しの竿では、道糸の出し入れが自由に出来る事から魚とのやり取りが簡単に出来長年の技術の習得を必要としないで済む。カーボン竿の出現でバカの長い分を竿の長さでカバー出来るので初心者でも黒鯛を狙うチャンスが増えている。

延べ竿で黒鯛を釣った時、魚とのやり取りは非常に難しい。ベテランに釣り人に言わせれば、難しいから面白いのであって簡単であればあるほどつまらないと云う。が、一度は大きい魚を釣って見たいと云う初心者の方たちの思いとは裏腹であることも確かである。釣法は釣具の進化とともに誰でもが釣れる釣り方へと進化している。そして普及している。その結果残念ながらゴミをゴミと思わない現場に捨てて帰るだらしのない釣り人も増えている。

画期的な餌であるオキアミの出現が色々な問題を引き起こしたと考えると、大きな問題として捉えることが出来る。たかがオキアミ、されどオキアミであることは、間違いのない事実である。最近全国的に流行った渚釣りも、庄内釣法から出た中通し釣法の進化型である。庄内の温海のおけさ会と云う釣同好会の人達が三間半から四間の並継ぎのヘラ竿を中通し竿に改造し、それに同軸リールを付けオキアミを撒き餌にし、磯場の中の小さな砂浜に立って晩秋から初冬にかけて大型黒鯛を盛んに釣り上げた。砂浜の中の小さなハキを探すと云う事が求められるが、これが全国に伝わり現在ではウキフカセによる渚釣りも考えられている。

ただ惜しむらくは全国一律の釣では、面白くないと云う事である。地方にあってはその地方独特の釣り方があってしかるべきであると考える。昭和40年末から50年代前半に販売されたオキアミの出現をこのように捉えると非常に面白い事が分かる。